主人公のハンスは奉公のおしまいに金の塊をもらって故郷へ向かうのですが、なんと家に帰った時には彼は手ぶらなのでし た。道中に一体何が起こっ たのか？彼は愚か者か、それとも幸せ者なのか？「ハンス」 はドイツ語ですが、ロシアでは 「イワン」、チェコでは「ヤン」、 英語では「ジョン」。いずれも物語によく出てくる名前ですよ ね。語源をたどると「満ち足りている人」だそう。さて人は何によって満ち足りるのか？ 僕はそんなふうにこの本を読みました。 グリム童話 / フェリクス・ホフマン え / せたていじ やく

僕たちが、生きるために必要なもの。それはなんといっても地球です。まあ、僕たちは地球から生まれてきたようなものだから当たり前なんだけど、あらゆるものを地球から調達しています。太陽系のほかの惑星と地球との大きな違いは、植物が育つっていうこと。植物がないとぼくたちは生きていかれない。それに、食べるものは、ほとんど植物だし、ぼくたちが食べる動物たちだって、植物を食べて生きている。衣服だって植物だしさ。何が言いたいかっていうと、ぼくたちは植物を育てながら、暮らしてるってこと。生きるためにさ。そして、人が生きるために必要なものを育てる場所が〈庭〉なんだよ。原書のタイトルは “Inch by Inch —The Garden Song—”。庭のテーマソングのような絵本です。 デービッド・マレット 文 / オラ・アイタン 絵 / 脇明子訳

霧の中に迷い込んだら、不思議なお祭りが開かれていました。この絵本、歌が出てくるんですけど、ドライブをしていて、霧が出るとなんか歌いたくなるんです。きりふりやまの～きりのなかで～。たむらしげるさんのシリーズは見るとほしくなります。 たむらしげる さく

言葉にしないとわからないことってあります。でも、言葉にしなくてもわかってしまうことがある。視線や表情、仕草や態度で大体のことは伝わっているんじゃないかなー。いいことも悪いことも。自分の気持ちに嘘をついている人のこともなぜだかわかってしまいます。ぼくたちは、多くのことを言葉を使わずに対話しています。幼い人たちは、毎日わからない言葉に囲まれていますけど、気持ちを感じて、通じ合うことができる。彼らは、身近な親しい大人たちからの愛情がないと生きることができません。 マリー・ホール・エッツ ぶん・え / ふなざきやすこ やく

僕も小さい時に読んでもらった記憶が残っている本です。妙なインパクトがあるんですよね。絵も物語も。おどりが好きな変わり者の虎。好きが高じて踊ることを生業になりました。ある時、昔仲間外れにされた虎たちに出会います。さてさて……。いやはや、昔話には不思議な魅力があります。 こどものとも1987年1月号 / 金森襄作 再話 / 鄭琡香 画

病気にかかって倒れ込んでしまうおじさんが主人公です。かなりシュールな絵本なんですが、このシリーズは、読むと妙な世界観にはまってしまいます。こどもが生きている日常って、大人が想像するよりも、いろんなことが起こっているので、そう心配することはないでしょう。ドキッとすることもありますが、日常がそのまま描かれている絵本も楽しいものです。 ヨックム・ノードストリューム / 菱木晃子 訳

「せかいは すてきなところです」。1ページ目に書かれている言葉です。僕も同感です。なぜそう思うのかって？確かに、この世界には目も耳も塞ぎたくなるような出来事がたくさん起こります。人間の力を遥かに超えた自然の猛威もあるし、愚しい人間の過ちもある。どうやら上手くいってるとは思えません。むしろ、どんどん悪い方向へ向かっているように見える。でも、だからってこの世界がすてきじゃないってことにはならないと思いませんか？ ウィリアム・ホール 文 / ロジャー・デュボアザン 絵 / ほしかわなつよ 訳

頭で考えるっていうけど、ぼくは身体で考えるんだと思うんだよね。頭だって身体の一部だしさ。君はどう思う？ 頭を使うのか心を使うのかで、「理性と感情」で分けたりするけど、頭も心も身体だから、 分けるのはおかしい。だって、心は身体の中にあるもの。それに、「理性と感情」じゃなくて、比べるなら 「理性と感性」だよね。そして理性も感性も「センス / sense」だから、結局はどっちも「感受性 / 感じる力」のことだと思うんだ。 理性的であろうと感情的であろうと、「自分が何を感じているのか？」ってことがわかっているかどうかが大切なこと。それがわかってないと、それは混乱してるってことなんじゃないかな。混乱が悪いってことじゃないけど、混乱してるって気がついていないと、 その乱れはなくならない。この漫画に登場するユキはさ、混乱してるんじゃなくて自分の感受性を100％使ったんだと思う。 どうやら、そうすることで 違う世界が見えてくるようです。 松本大洋