岩波少年文庫が70周年を迎えました。このシリーズの礎をつくりだしていただいた石井桃子さま。あなたが、妥協なくこどもと児童文学に向き合い格闘してくださったからこそ、今僕はたくさんの物語に出会うことができます。僕は本好きですが、児童文学には本のすばらしさのすべてが詰まっているのではないかと思います。あなたが、選ぶ時の基準にしたのは、本を読んだ時に桃子さん自身が感じる「喜びの訪れ」だと70周年の特設サイトで知りました。本を読んで感じる「喜びの訪れ」。その基準、最高すぎです！ あなたが20代で訳し始めた『クマのプーさん』で、コブタが「プー、きみ、朝おきたときね、まず第一にどんなこと考える？」と問いかける場面が思い浮かびました。そして、「幸せを感じること」、それが何よりこどもに必要なことなのかもしれないなと……。今収録作品は460冊を超えたんですって。まだまだ読む本がたっぷりあって、幸せだなと思います。 A.A.ミルン 作 / E.H.シェパード 画 / 石井桃子 訳

繰り返し読んでも、すっきりわからない、そんな味わいがあるいい本です。この本でメアリーが太陽と踊る場面があるのですが、終わりの時間がきて、太陽がメアリーたちに別れを告げるとき「 ——— ほんのしばらくのあいだ ——— ごきげんよう！ ごきげんよう！」というセリフがあるんです。この最後の「ごきげんよう！」という別れ文句が僕はとても好きです。祈りが込められている気がするんですよね。 メアリーは僕のあこがれの人でもあるんです。絶妙なメリハリがたまりません。こどもが好きになっちゃう魅力がたっぷりあるんですもの。それでは、ごきげんよう！ ごきげんよう！ P.L .トラヴァース作 / 林容吉 訳

名前は知ってるけど読んだことがない、そこのあなた！ どんな書店や図書館にもこの本は必ずありますから、まずは手に取って眺めてみてくださいな。星の王子さまって何者だったんでしょうね。あ、もう一回読んでみようっと。 サン＝テクジュペリ 作 / 内藤濯 訳

とっぷりと文字の世界に入り込めると人生は豊かです。ローラの話をする仲間ができるのは、僕の幸せのひとつでもあります。ぼくは年末になるとこのシリーズを手に取って、眺めるようにしています。もう何度も読んでいるんだけど、読み始めるとなかなかどうして、結局読んでしまうのです。このシリーズの中でクリスマスの場面がいくつか出てきますが、『長い冬』に出てくるクリスマスは、そりゃもう厳しい。食料尽きかけ、吹雪は来るし、汽車は来ないし、マーケットは空っぽ状態なんだけど、最後まで読むとね……すてき（あっ、ネタバレ注意！）。 ローラ・インガルス・ワイルダー 作 / 谷口由美子 訳

 ドイツの週刊誌に連載されていた人気漫画が、 岩波少年文庫から2018年7月に再販されました。 ドイツはナチス政権時代。作者のエーリヒ・オー ザーは妻に、「どうか、クリスチアン（一人息子） を人間に育ててくれ。」と遺書に託しました。この漫画には人間らしいユーモアがあります。  e.o.プラウエン 作

本はね、君に必要なときに呼びかけてくれるんだ。僕は、君が君に呼びかける声が聞こえています。なぜって？ それは読み終わるまでの秘密です。読み始めたら、 バーソローミュー夫人によろしく伝えてください。いつもの扉をあけると、不意に違う庭に出てしまうことがあります。そこはいつも同じ庭とはかぎらないんだ。不思議。みんな自分にしか行くことのできない庭があるのかもしれませんね。 フィリパ・ピアス 作 / 高杉一 郎 訳

僕がこの本に出会ったのはまだこどもの頃。もう30年近く昔の話です。自分で読んだのではなくて、寝る前にお父さんに読んでもらったんです。たぶんその時から、このジム・ボタンの物語は読み返していません。次に読み返すのは、やっぱり息子に読むときかなと思っています。だから、忘れてしまっているところもあるんだけど、僕が今でもはっきり思い出せる場面があります。それは「たそがれ谷」の場面です。僕はすごくドキドキしながら、ジムとルーカスと一緒に、 エマに乗って、轟音と迫りくる山崩れを駆け抜けたのでした。おじさんになった今でも思い出せるんだから、よほど楽しかったのか、怖かったんだと思います。あ、なんかだんだん思い出してきたぞ。でも、 ぼくは続編の『ジム・ボタンと13人の海賊 』のほうがおもしろかった記憶があるんですよねぇ。 ミヒャエル・エンデ 作 / 上田真而子 訳

30年前に住んでいた家の寝室には、2段ベッドを含め4つのベッドがあった。今思うとそこは、冒険に出る時の砦だった。洞窟だったり、基地だったり、船だったり……。どんな旅に出るかは心に入っている物語次第。心にどんな言葉を蓄えているのか、どんな物語を生きようとしているのか。物語は「あそびの素」、エッセンスですな。いつか読もうと棚に並べておいたランサムの壮大なシリーズ。 アーサー・ランサム 作 / 神宮輝夫 訳