絵の具バッグと灰色からの手紙


ある日、小学1年生の息子が、絵の具セットのチラシを持って帰宅しました。絵の具、筆、筆洗いバケツがカラフルなバッグに入ったセットが載っています。女の子向けには華やかなリボン、男の子向けにはスポーツブランド風のロゴ。学校が案内する絵の具セットのチラシは封筒になっていて、期日までに代金を入れて持っていくというもの。同封されていたお便りには「家庭で用意しても良い」と書いてありましたが、息子はチラシから選ぶつもり……。
あぁ、また灰色からの手紙が来た。「灰色」はミヒャエル・エンデのものがたり『モモ』に出てくる時間泥棒の男たちのこと。言葉巧みに効率化を促し、いつのまにか人々から時間や余裕を奪っていく存在です。こどもの物はできるだけ丁寧に選びたいと思っています。持ち物をはじめ、読むものや遊ぶもの、食べものや着るもの。気をつけてないとシャワーのように降り注ぐ情報の中から、選ばされるだけになりかねない。大人はCMや広告を見分けられるけど、こどもは素直でそうはいきません。学校でもらってくるチラシを見るとちょっとがっかりしてしまいます。
息子と話し合って、絵の具は文具店で個別に買い揃え、バッグはデニム生地で手づくりしました。チラシから選んだ方が安くて早いのですが、うちは両親揃って「灰色には耳を貸さない」のです。最初は友達と同じのがいいと言っていた息子も、今は気にせずみんなと違うバッグを使ってくれています。少し前に『モモ』を読み終わった息子。きっとわかってくれているでしょう。

 


佐々木智子
(ささきともこ)
洋服と雑貨の店「cholon」店主。9月21日に庭ビルにお店をオープンしました。紅茶の本「Tea Time」の編集部スタッフ。趣味はアジアの旅と写真、市場めぐり。