保存のはなし

春先、北海道では貴重な筍が大量に届きましたので、せっせと下茹でして、水煮にして保存しました。ざっと下茹でに1時間。瓶詰めしたあと、殺菌のために瓶ごと1時間茹でます。その間は放置。皮をむいたり、瓶詰めするのは、何かの作業の合間にサッとできるので「こりゃ簡単だなぁ。何も考える必要ないし」なーんて思ったものの、使った鍋の大きさや、できあがった瓶詰めの数を見て、「あれ、もしかして簡単ではないのかも?」という思いが、ふと頭をよぎったのです。 わが家には大鍋も保存瓶も常備してあります。そして、それをしまっておく場所も用意(というか、勝手に占拠)しています。しかし世の中は断捨離ブーム。「スッキリ暮らそう!」みたいなところもあるので、それってなんだか…… と、モヤモヤしたので父さんに話してみました。すると「トマトの水煮はもっと簡単にできるけど、道具や場所のハードルはちょっと高そうで、一般家庭にはなかなか大鍋や保存瓶はないかもね」と。

人が1年で食べる量は、1日3食とすれば、だいたい決まっています。 畑の収穫は一気に来て、ピークが1週間くらいなものもあり、冬に収穫はありません。きっとどこかで誰かが、それらを保存し保管しているわけです。「結局は、その保存や保管を誰かに任せるか? 自分でするのか? そういうことなんじゃない?」と。 わが家は、畑の作付け計画的に、食べる量やどれくらい保存する必要があるかの見当がつきつつあります。あんなに簡単で美味しいのだから、むこう3回分くらい、いや、1箱分から保存を始めてみるとか。そう、何よりやってみるのが始めの1歩です。それが楽しいのか、美味しいのか、安心なのか。その感じ方はさまざまですが、つまり、全部含んでいて、その方法や楽しみ方のお手伝いが私はどうやら得意なようです。そんな私のハードルは、収納の整理と鍋の手入れ。量に負けない、冬まで続くやる気と体力な気がしてなりません。

 


安斎明子
(あんざいあきこ)
たべるとくらしの研究所副理事長。畑担当の理事長が作った野菜たちにたっぷり手間暇をかけ、一切の無駄を出さずに絶妙な味を引き出す料理人。季節の果樹を使ったジャムなどの加工品や香味野菜のオイル漬けなど幅広く保存や加工を研究している。最も畑に近い料理人。