旅のはなし

お店を閉めて何してるの? とよく聞かれます。蘭越の改装はまだまだ終わりそうになく、お店を再開することはしばらく難しそうですが、加工品をつくる傍ら、農作業を体験する修学旅行生を受け入れるホストもしています。実は、兼ねてから「寮母」をしてみたいと考えていました。お店のごはんと家のごはん、私の中では少し区別しています。お店のごはんは、いわばハレの日のごはん。お友だちと約束してわざわざいらしてくれたり、毎月変わるごはんや季節のくだものを使ったデザートを楽しみにしてくださったり。その想いを踏まえて、自分の想いも乗せて、ちょっと特別なメニュー(言い過ぎですが)を考えていました。でも、家のごはんは違います。毎日が特別ではその手間に息苦しくなってしまいます。季節のものと、身体の調子が中心。身体は食べものからできている、と思っているので、特別でなくてもシンプルなものでも良し。記憶に残らなくても身体が覚えていると信じて。そんなこんなは知らないはじめましてのこどもたちに、寮母のおばちゃんとしてせっせとごはんをつくります。修学旅行だから、普通のごはんにお楽しみ感を少し加えて。こどもたちも喜んでくれて盛り上がる。反応がダイレクトで、とても充実しています。

6月には、東京から来たミュージシャンのツアーに、荷物運びの運転手として同行しました。札幌〜芽室〜別海〜網走〜下川〜小樽〜美瑛〜札幌という距離が、こんなにも長かったとは……。事前にルートを調べない方がいいよ、と言われた意味が分かりました。宿泊場所は毎日変わります。Airbnbやゲストハウスも含んでいたので、最低限の調味料と食材を持参しました。約1週間。こんな旅は久しぶりです。旅先のキッチンが思いのほか充実していたので、できるだけ自炊しよう! とスイッチが入りました。移動中、コンビニすらないので食難民になりかねません。北海道の旅、危険です。そして、旅の終わり頃気づいたのです。あれ? 旅なのに調子がいい、と。私は旅に出るとたいてい胃が疲れて外食がキツくなるのですが、どうやら、みんなも調子が良い、と思っていたようです。

もともと私の役目は運転手。食は求められていないと思っていたので、良かったらどうぞ、と。私は自分の運転が心配だったので、自分の調子を保つために、自分本意な献立にしていました。ご馳走ではありません。味噌を持参していたので、みそ汁の和定食。野菜中心のサンドウィッチ。簡単なごはんです。しかしそれは、私の運転だけではなく、彼らのライブにもプラスになっていると気がつきました。言葉ではなく、お互いのパフォーマンスでお互いをねぎらい合う。運転する寮母はなかなかハードな1週間でしたが、とてもやりがいがあり、最後には楽屋でも軽食が作れるように。シンプルな調味料で味を決める。たべけんのごはんづくりが味の素として、とても役立ちました。今度は旅する寮母としてもいけそうです。そして、9月からは札幌進出です! 庭ビル内の庭キッチンの準備が整います。定期的に札幌に来れるとは! 新しい楽しみが続きます。

 


安斎明子
(あんざいあきこ)
たべるとくらしの研究所副理事長。畑担当の理事長が作った野菜たちにたっぷり手間暇をかけ、一切の無駄を出さずに絶妙な味を引き出す料理人。季節の果樹を使ったジャムなどの加工品や香味野菜のオイル漬けなど幅広く保存や加工を研究している。最も畑に近い料理人。