林檎のはなし

冬がやってきました。厳しいけれど、やっぱり雪景色は美しく大好きな季節。閉ざされていると、冬にコトコトと鍋で煮込んだり、オーブンを使ったり。部屋中その香りに包まれたりすると、それだけで豊かな気持ちになりますが、夏に同じ作業をすると、何かの修行かとも思います。そして、同じことを毎年必ず思うから不思議です。季節によってやりたい事が変わるのは、日本の豊かさと言ってもよく、暮らしていても飽きがこなくて良いものです。くだものも一緒で、焼いたり、煮たり、お菓子にしたり。ひと手間加えたものが食べたくなります。

冬といえばりんご。お菓子といば紅玉。しかしその紅玉の収穫は実は秋。私はお菓子には、さんさ、紅玉、陽光、王林、アルプス乙女、サンふじを使います。それは、嫁ぎ先の果樹園で育てているから。それぞれ味はもちろん違うのですが、味以上に火を通した時の実が、品種によって驚くくらい違います。調理となると、その実のイメージの調整が、特に難しく感じたこともありました。はじめて出合ったその違い、おーーー!!そうきたか!!!と、笑って受け止められる時もあれば、えっ、全然思った感じと違う……。と、落ち込んでしまう時も。なんで、そうならないんだろう。と悩んだ末、この品種は使わない! なんて、思ったこともありました。でも、ある時ふと、チャンネルが変わったように、コレも良さと受け止め、こうしたら良いかもと、いきなりイメージが湧いたりして、急に楽しくなりました。

素材に目を向けると、レシピでは当てはまらない時があります。素材の特徴を知ったことで、この林檎はこのお菓子など、移りゆく季節の林檎とともに、我が家なりの季節のレパートリーがひとつずつ増えてきたように思います。そして、たまには、いつもを変えてみると、また新しい発見があったりするから、これまた不思議。忙し過ぎず、家でこもってできる、ちまちまとちょっと変わったことでもやってみようかな。と、そんなことも思える冬がやっぱり好きなのかもしれません。

 


安斎明子
(あんざいあきこ)
たべるとくらしの研究所副理事長。畑担当の理事長が作った野菜たちにたっぷり手間暇をかけ、一切の無駄を出さずに絶妙な味を引き出す料理人。季節の果樹を使ったジャムなどの加工品や香味野菜のオイル漬けなど幅広く保存や加工を研究している。最も畑に近い料理人。