僕たちのビルの2階に、札幌市内の幼稚園や保育園に福音館書店の絵本を卸している札幌第一こどものとも社が運営する「ろばのこ」というおもちゃと絵本を販売するお店が移転してくることが決まりました。D&DEPARTMENT HOKKAIDOから徒歩数分の距離にあるSpace 1-15には、ろばのこの姉妹店BROTHER SUN SISTER MOONがあるのですが、それをどうするのかについてはまだ聞いてません。実はろばのこの移転については昨年末からなんとなく話していたました。今年に入ってから話が本格化し、話し合いを重ね、ろばのこの藤田さんからの最終的な返事を待っていました。「移転の話、前向きに決まりました」と返事をもらったときは本当に嬉しかった。強く願えば、想いは伝わるものですね。
子育てをしている僕にとっては、グラフィックデザインから、生活雑貨の販売を経て、絵本やおもちゃへと興味が移っていくのは自然です。流行としてのデザインから始まり、普遍的なデザインを目指したら、こどもの教育に辿り着いたと言い換えることもできるかもしれません。20代のスタッフと一緒に働いていると、ときどき視点の違いにハッとすることがあります。自分がおじさんになったことを実感する瞬間なのですが、そこで考えてみます。流行を意識していた20代の自分が、もし今の自分と出会ったら、いったいどう感じるのだろうか、と。
おそらく、20代の僕は、40代の僕には憧れないんじゃないかと思います。SNSにこどもの写真を投稿するとか、保育園にこどもを迎えに行くために仕事が中断するとか、理解できそうにありません。ニューヨークやロンドンではなくチェンマイに通うのもクールじゃない。今回、ろばのこがビルにやってくることも、その延長にある気がします。こどもがいる中年にはグッとくるが、20代にはよくわからないだろうと思うのです。ただ、僕のデザインに対する理解は少しずつ深まり、デザイナーとして進むべき方向へ向かっている確信があって、それをみんなに伝わるように形できないかな、と考えています。
この10年はD&DEPARTMENTを全面に出してやってきましたが、今後はD&DEPARTMENTや3KGはこのビルを構成する要素の1つになっていきそうです。そこで、そろそろビルに名前が必要だと感じました。名前を決めるにはしばらく時間がかかりそうなので、仮に「灰色ビル」と呼ぶことにします。灰色ビルで、これからの半年間に起こるのは、10年に1度くらいしか起こらない、ワクワクする、そして、ヒヤヒヤする出来事の連続です。この感触は、2007年にD&DEPARTMENT HOKKAIDOを立ち上げた頃に似ています。当時はとにかく必死だったので、ほとんど記録は残っていませんが、今回は写真と文章をしっかり残したい。