みんなと絵本とMAYA MAXX

大人に褒められなかったのは
唯一絵だけだったんです

庭:どうして原画展を開催することに?

M:札幌で、春義さんのところで何かやりたいとずっと思っていて、庭ギャラリーを見たときに、スペースがとても良いな、と。講演会じゃないことができるんだということがその時わかったの。昨年『さるがいっぴき(こどものとも2018年8月号)』という絵本を出したんです。『こどものとも』は安定した発行部数があるから、たくさんのこどもたちに届くじゃない。それってすごく面白いんですよ。お母さんが躊躇せずに買える値段だっていうのも、私は好き。安価な月刊誌という制限は仕事としては面白い。そこは私もプロだから。でもね、『さるがいっぴき』の絵は、本当に残念なくらい原画の方がいいんですよ。えっ?? ていうくらいに違う。印刷するのが難しいタイプの絵なので仕方ないんですけどね。ぜひ原画を見てもらいたいという気持ちがありまして、それで原画展を開催しようということに。

 

庭:こどもの頃から絵を描くのが好きでした?

M:いや、小さい頃は絵を描くのは嫌いだった。

 

庭:えっ?どうして絵を描くことに?

M:ねー、不思議。その話は今度講演会でするね、長いから。一言でいうとね、私はいわゆるできるこどもだったの。勉強も運動も割とできた。「これはこうしてこうすればこうなるから」っいうのを理解するのがすごく早かった。クラスメイトのことを「こどもだからしょうがないな」って思ってたの。大人に褒められなかったのは唯一絵だけだったんですよ。で、それずーっとそのままにしておいたから今こうして絵を仕事にできているんだと思う。

 

庭:こう描いたら褒められる、という感じでは描かなかった?

M:絵だけはそれができなかったの。わかってたんだよ、だいたい、こういう感じで描けばいいんだろうなって。賞をもらう子の絵を見てると把握できるじゃない。だけどそういう風に見えないんですよね。私には。きっと、何かがものすごく欠落してるこどもだったのに、上手に世の中をかわしてたから、内面のちょっとおかしな具合を温存できた、それが絵だったってことなんですよ。よかった、本当に。

 

絵っていうのは、
心の中にあるものを
外に出すこと

庭:こどもに興味が出てきたきっかけは?

M:「こどもがお好きなんですね」とよく言われるの。でもね、私はとりわけこどもが好きなわけではなくて、人間を全体に祝福してるだけ。私はこどもに対して、大人に話すのと同じように話します。「〇〇ちゃ〜ん、〇〇だからね〜」とは絶対に言わない。ひとりの人間として見てる。ただ、経験が少ない分、生きている年数が少ない分、1人ひとりとても特徴があるから、そこが好きなんです。自分の中に永遠のこどもがいるんです。それが何歳なのかは人によって違って、私の場合は9歳。自分の中にこどもの自分がいる限り、こどもをこどもとは思わないんだと思う。

 

庭:今回の庭ビルでのワークショップでは自画像を描きますね。

M:似顔絵ではなく自画像をキャンパスに描きます。4号(A4くらい)のキャンバスってちょうどこどもの顔が入るくらい。美術が好きでもない限り、キャンバスに描く機会に出会わない子もいっぱいいますよね。紙では味わえない、本当の感じがするじゃない、キャンバスって。自分を見ながらキャンバスに丁寧に描くっていう経験をして欲しい。それから、お母さんって紙に描いたペラペラのものはいずれ捨てるんだよ、絶対に。でもキャンバスに描いてあるものってやっぱり捨てにくいじゃない。

 

庭:自画像って難しそう。

M:そっくりに描かなくていいんです。それなら写真を撮った方がいいです。自画像っていうのは、自分をよく見て自分ってのを描く。それがね、意外とこどもはよくわかるの。大人だと「それは一体??」ってなるけど、こどもは「あぁそうか」「なんな、そうなのか」っていうね。そっくりに描いてるのが上手な絵だという考えの人もいるけど、私は全くそうは思わない。絵っていうのは、心の中にあるものを外に出すことであって、外にあるものをそっくりに描くことではないと伝えると、こどもには伝わるの。もう面白いくらい。写真は世界を切り取りにいくんですね。だけど絵は心の中から出してくるってことなの。それを言うとね、なんかね、よくわかるからね。そういう風に大人に言われたことがある子とない子とでは、やっぱり違うと思う。

 

庭:なるほど。

M:こどもたちはワークショップを終えると、「大仕事した!」って顔で帰っていくよ。なんだか認められた感じがするんだと思うの。私は誘導しないし、教えもしないから、じーっと見ることで、後ろから背中を押すみたいなことをしてるのね。学校の先生って頭が固いから「この人何も教えない、大丈夫?」って思う先生もいるんですよ。「もう少しこういう風になさったら、先生」みたいに言うから「私は独学だから、誰にも教わってないから、教えることがないんですよね〜」と言うと諦める。面白いよ!大人もやっていいよ!

 

親の価値観だけでは
測れない人もいるんだ

庭:絵が苦手という子もいますよね?

M:いますよもちろん。そういう子には、「絵は誰でも描けるよ。上手に描けないだけ」って伝えます。そして、「上手っていうのは君が思ってる上手の価値観であって、先生から見たら関係ないね」って言う。絵は自由なんだよって言うと、だんだんその気になってくよ。

 

庭:短い時間で苦手意識を拭い去れるものですか?

M:うん。私が本気でそう思っていると伝われば、「あぁ、そうなんだ、いいんだ別に」って感じになっていく。大人はよく絵心がないって言うでしょ。「それは絵心がないんじゃなくて、心がないんだなー」て言う。ものすごくムッとする人のいれば、「そうかぁ、そういうことですよね」っていう人もいる。大人は先入観を拭い去るのに時間がかかるから、あんまり大人向けのワークショップはやりません(笑)。でも、こどもにその新しい価値観が加わったら、その後の人生は全然違うと思うのね。わずかな違いかもしれないけど。

 

庭:大人はもうそのままでいい、と。

M:大人はね、もういいの。あとは自分の人生、自分でやってって感じ。だけど、こどもはワークショップを通して、世の中や親の価値観だけでは測れない人もいるんだ、下手な絵をすごく上手いと思う人だってこの世にはいるんだって思えるかもしれないじゃない?そうすると意味があると思うんだよね。

 

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MAYA MAXX(まやまっくす)
1961年愛媛県生まれ。早稲田大学教育学部卒業。1993年に初個展「COMING AND GOING」を行う。以後毎年個展を開催。CDジャケット、CMなどへのイラスト提供、「真剣10代しゃべくり場」「ポンキッキーズ」へのテレビ出演など幅広く活動。「しろねこしろちゃん」「らっこちゃん」「ぱんだちゃん」(福音館書店)「トンちゃんってそういうネコ」(KADOKAWA)「ねこどんなかお」(講談社)